投資ガイド
NOI と FCR の本質 — 不動産投資の本当の収益指標
表面利回りでは見えない、運営後の実収益と借入後の自己資金収益を分解する。
不動産投資の現場で「利回り◯%」と言うとき、多くの場合それは表面利回り(グロス利回り)を指します。しかし、購入後の経費・空室・借入返済を踏まえると、実際の手取りキャッシュフローは表面利回りの30〜50%程度に落ち着くのが一般的です。本記事では、プロが日常的に使う NOI(Net Operating Income) と FCR(Free and Clear Return) を分解し、表面利回りの先にある「実収益」「自己資金利回り」を読み解く視点を整理します。
表面利回り → NOI → FCR の3段階
不動産投資の収益指標は、ざっくり3層構造で考えると整理しやすくなります。
- 表面利回り (Gross Yield) = 年間家賃収入 ÷ 物件価格
- NOI 利回り (実質利回り) = (年間家賃 − 運営経費) ÷ 物件価格
- FCR (自己資金利回り) = 自己資金に対する手取りCF
表面利回りはチラシの見出しに踊る数字で、運営の現実を一切織り込まない指標です。NOI は運営経費を引いた「物件そのものの稼ぐ力」、FCR は借入返済後の「自分のお金がどれだけ働いたか」を表します。
NOI を計算する — 運営経費の中身
NOI は「物件運営によって生まれる純収入」。家賃から、運営に必要な費用を全て引いた後の数字です。一般的な区分マンションでは、運営経費は家賃収入の 20〜30% を占めます。内訳を見てみましょう:
例: 都心ワンルーム、家賃月10万円(年120万円)、物件価格2,000万円
- 固定資産税・都市計画税: 年8万円
- 管理費・修繕積立金: 月15,000円 = 年18万円
- 賃貸管理委託料: 家賃の5% = 年6万円
- 修繕費・原状回復(平均化): 年4万円
- 火災保険料: 年1.5万円
- 空室損失: 家賃の5% = 年6万円
運営経費合計: 年43.5万円、NOI = 120 − 43.5 = 年76.5万円
表面利回り 6.0% に対し、NOI 利回り = 76.5万 ÷ 2,000万 = 3.83%。表面の約64%まで圧縮されました。
FCR を計算する — 借入返済の引き算
NOI から、借入返済(元利合計)を引いたものが BTCF(Before Tax Cash Flow)。これを自己資金で割ると FCR になります。
続き: 上記の物件を、自己資金200万円(10%)、借入1,800万円・金利2.0%・35年返済で買ったとします。
- 年間元利返済額: 約71.5万円
- BTCF: 76.5 − 71.5 = 年5万円
- FCR: 5万 ÷ 自己資金200万 = 2.5%
表面利回り 6.0% は、最終的に自己資金利回り 2.5% にまで圧縮されました。これを把握せずに「6%だから儲かる」と判断するのは、危険な皮算用です。
3つの指標、それぞれの用途
表面利回り — 物件を一覧でフィルタリングする時の最初のスクリーニング。「7%以下は除外」のような粗い篩。
NOI 利回り — 物件そのものの収益力を比較する時。エリア・築年・構造によって、適正なNOI利回りのレンジは違います。例えば都心RC築浅は2.5〜4%、地方RC築古は5〜8%。エリアと物件種別を揃えた比較で意味を持ちます。
FCR — 「いくらの自己資金を入れて、年いくら返ってくるか」が見える、投資家の最終損益指標。理想はFCR 8〜15%。FCR がマイナスならキャッシュフロー赤字で、毎月持ち出しが必要な物件です。
FCR を改善する3つの方法
1. 金利を下げる — 2.0%→1.5%で年返済額が約4.5万円削減。FCRが2.5→4.8%に上昇。借り換えの効果は侮れません。
2. 運営経費を圧縮する — 賃貸管理を5%→3%、空室期間を短縮、火災保険を比較見直し。年間5万円減らせれば、FCR は2.5→5.0%。
3. 自己資金比率を変える — 自己資金を100万円(5%)に減らせば、FCR は2.5→5.0%(分母が半分)。ただしリスクも倍増するため、FCR が高い=良いとは限らない点に注意。
シミュレーションは必ず手元で
不動産業者が出してくる収益シミュレーションは、空室率を低めに、運営経費を少なめに見積もる傾向があります。REA流 不動産収支シミュレーションシートのような独立系のシミュレーションツールで、保守的なケースを必ず自分で計算するのが鉄則です。同じ物件でも、想定空室率を5%→10%、修繕費を2%→4% に変えるだけで、FCR が大きく変わることが見えてきます。
不動産投資の収益判断は、表面利回り → NOI → FCR の3層を全て計算した上で、最終的にFCRで決断するのが本来の姿です。物件業者が見せる数字を鵜呑みにせず、運営後・借入後の現実値で投資判断ができるようになると、購入候補の見え方が一段クリアになります。
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