投資ガイド
空室リスクの定量化 — 想定空室率を保守的に組む方法
業者シミュレーションは空室率5%。実態は何%?エリア・物件種別別の保守ケース。
不動産投資のシミュレーションで最も影響が大きい変数のひとつが「空室率」。業者の楽観的な5%設定と、ストレスケースの15%では、年間収益が10〜20万円違うこともあります。本記事では、空室率の実態データと、保守的な想定の組み方を整理します。
空室率の実態データ
2025年時点の主要エリア空室率(住居系・国土交通省データ・REINS等):
- 東京都心3区(千代田・中央・港): 5.0〜7.5%
- 東京23区主要部: 6.0〜9.0%
- 東京近郊主要駅: 7.0〜10.0%
- 大阪・名古屋中心区: 8.0〜11.0%
- 札幌・福岡中心区: 9.0〜12.0%
- 地方政令市中心区: 10.0〜14.0%
- 地方中核市: 12.0〜18.0%
業者シミュレーションの「空室率5%」は、東京都心3区の優良物件にしか当てはまらない数字。多くの物件はこれより高い実態空室率があります。
空室率と稼働率の違い
業者の使う「稼働率」と税務上の「空室率」は微妙に違います:
- 稼働率 = 入居期間 ÷ 全期間 × 100%
- 空室率 = (1 – 稼働率) × 100%
同じ「年に1ヶ月空室」でも:
- 稼働率: 11/12 = 91.67%
- 空室率: 8.33%
稼働率92%、空室率8% は同じこと。「業者が稼働率92%を約束」 = 「空室率8%」を意味する。
保守的なシミュレーションの組み方
シミュレーションを組むときの空室率設定:
ベースケース(現実的)
- 業者シミュ + 1〜2%
- 東京都心: 8% / 都心外: 10% / 地方: 12%
ストレスケース(保守的)
- ベースケース + 5%
- 東京都心: 13% / 都心外: 15% / 地方: 17%
ストレスケースで月CFがマイナスにならない物件であれば、安全圏。マイナスになる物件は、「稼働率の現実が想定を下回ると即赤字」という危険構造があると判断。
空室期間の構造的要因
空室になる主な要因:
1. テナント退去後の客付け期間
退去 → 原状回復 → 募集 → 内覧 → 申込み → 審査 → 契約 → 入居
都心では2〜4週間、都心外で4〜8週間、地方で2〜4ヶ月。築古や駅遠は更に長期化。
2. 季節要因
賃貸市場のピークは1〜3月の引越シーズン。その他の月は需要が薄く、客付けが遅延。年に何回退去が発生するかで、空室期間の年間累計が決まる。
3. 賃料設定の問題
市場相場より家賃が高いと、長期空室。築年数で家賃を段階的に下げる柔軟性がないと、空室率が上がる。
4. 物件のリフォーム状態
古くて汚い物件は内覧時に決まらない。リフォーム済みは1ヶ月以内、古いままは3〜6ヶ月待ちの構造。
事業的規模と空室の関係
1物件の空室は致命傷だが、複数物件のポートフォリオなら影響を分散できます:
- 1戸保有: 空室1ヶ月で年収益の8.3%減
- 5戸保有: 1戸の空室で年収益の1.7%減
- 10戸保有: 1戸の空室で年収益の0.8%減
分散効果が大きい。「いくつ持つか」が空室リスクの実質的なコントロール手段になります。
保守的シミュレーションの実務
物件購入前に行うべきシミュレーション:
ベースケース確認
- 業者シミュレーション + 空室率2%上乗せ
- 家賃下落年-1%
- 運営経費2%上乗せ
- これでDSCR 1.2以上、月CFプラスを確認
ストレスケース確認
- 業者シミュレーション + 空室率10%
- 家賃下落年-3%
- 運営経費10%上乗せ
- これでDSCR 1.0以上、月CF -2万円以内を確認
ストレスケースでも月CF -2万円程度に抑えられれば、許容範囲。これを超える物件は購入見送りが安全。
空室期間中のキャッシュフロー対策
1〜2ヶ月の空室は織り込み済みでも、6ヶ月超の長期空室になる場合の対策:
- 家賃を5〜10%値下げして募集
- 募集条件の緩和(ペット可、外国人可、楽器可など)
- 入居日柔軟化(即日入居・敷礼ゼロなど)
- 仲介業者へのキャッシュバック(成約礼金の上乗せ)
- SNS・SUUMOでの追加露出
シミュレーターの活用
REA流 不動産収支シミュレーションシートのような専門ツールでは、空室率5%・10%・15% の3パターン同時シミュレーションが可能。各シナリオでの10年累計CFを比較することで、物件の「悪い時の耐性」が一目でわかる構造。これを使ってから物件購入を決めるのが、ベテラン投資家のスタイル。
「サブリース契約」の落とし穴
「30年家賃保証」を謳うサブリース契約は、空室リスクを業者が引き受ける仕組み。ただし業者側のリスク補填として、家賃の85〜90%しかオーナーに渡らない。空室率15%のエリアなら一見得だが、5〜8%のエリアでは損する設計。サブリース契約書に「家賃減額条項」(数年ごとに見直し)があると、業者にとってのみ有利な構造になりがち。
空室リスクは、不動産投資で最も予測が難しく、影響が大きい変数。エリア・物件種別・運営方針に応じて、自分なりの保守的な空室率を設定し、それでも収益が成立する物件選定が、長期で勝つ投資家の条件です。
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