投資ガイド
不動産投資の利回り計算 完全ガイド — 表面・実質・キャッシュ・IRR
「表面利回り8%」のチラシは、本当の収益性をほぼ示していない。本ガイドでは、表面・実質・キャッシュオンキャッシュ・IRRの4つの利回り指標を、東京・福岡の実例で計算し、何が信頼でき、何が騙しのテクニックなのかを示す。
不動産投資のチラシに大書される「表面利回り8%」「想定利回り10%」という数字は、ほとんどの場合、実際の収益性を示していない。利回りには 4種類 あり、それぞれ意味が異なる。本ガイドでは、4指標の計算式と、現実的な数値感覚を提供する。
1. 表面利回り(Gross Yield)
もっとも単純で、もっとも誤解を生みやすい指標。
計算式: 年間賃料収入(満室想定) ÷ 物件価格 × 100
例: 月額賃料10万円、物件価格2,500万円 → 12 × 10万 ÷ 2,500万 = 4.8%
欠点: 諸費用、空室、管理費、修繕費を一切考慮しない。販売資料の数値はほぼ表面利回りで提示される。
2. 実質利回り(Net Yield / NOI Yield)
運営にかかる経費を引いた数値。実態に近い。
計算式: (年間賃料収入 – 年間運営費用) ÷ (物件価格 + 取得時諸費用) × 100
運営費用の主な内訳:
- 固定資産税・都市計画税(賃料の5〜8%)
- 管理費・修繕積立金(専有マンション)(賃料の10〜15%)
- 賃貸管理委託料(賃料の5%)
- 火災保険(年1〜3万円)
- 修繕費引当(賃料の5〜10%)
- 空室損(賃料の5〜10%)
例: 表面4.8%の物件 → 経費率を賃料の30%、取得諸費用を物件価格の7%と仮定すると:
(120万 × 0.7) ÷ (2,500万 × 1.07) ≒ 3.14%
表面と実質の 差は1.5〜2.0% がこのセグメントの目安。
3. キャッシュオンキャッシュ(Cash-on-Cash Yield)
融資を活用する場合に重要。実際に手元に残る現金 ÷ 投下した自己資金。
計算式: (NOI – ローン返済) ÷ 自己資金 × 100
例: 物件価格2,500万円、自己資金500万円、ローン2,000万円(金利1.8%、30年元利均等)
– 年間NOI: 84万円(上記計算)
– 年間ローン返済: 約86万円
– 年間キャッシュフロー: -2万円
– キャッシュオンキャッシュ: -0.4%(マイナス)
融資条件が厳しいと、表面4.8%でもキャッシュフローはマイナスになる。金利1.0%上昇すると、ほぼ全ての都心物件のキャッシュフローはマイナス圏に沈む。
4. IRR(Internal Rate of Return / 内部収益率)
もっとも高度な指標。取得時投資、毎年のキャッシュフロー、売却時の手取り、を全て時間軸で割引いて、その投資が生んだ年率収益率を求める。
IRRは、保有期間と売却価格を仮定して計算する。エクセルの =IRR() 関数で容易に計算できる。
例: 上記2,500万円物件、自己資金500万円、10年保有、売却価格2,300万円(値下がりを想定)
– 年0: -500万円
– 年1〜10: -2万円〜+5万円(賃料推移とローン残高による)
– 年10: +売却手取り約400万円(残債1,400万円控除後)
– IRR ≒ 1.2〜2.5%
同じ物件でもIRRはシナリオに大きく依存する。「築25年で売却」「家賃20%下落」「金利2%上昇」のいずれかが起こると、IRRはマイナスに振れる。
営業資料を読む際の注意点
- 「想定利回り」は満室想定。新築の入居期は1〜2ヶ月の空室が普通
- 「税込/税別」: 法人取得の場合と個人取得で消費税の扱いが変わる
- 「初年度のみ」の修繕積立金: 値上げ計画が標準。長期修繕計画書を確認
- 賃料の現実性: 同マンション内の他住戸の募集賃料を必ず確認
- 修繕積立金の積立水準: 国交省ガイドライン(築年数 × 月平米単価)で適正水準を判定
キャップレート(Cap Rate)との関係
「キャップレート」は、商業用不動産で使われる用語で、NOI ÷ 物件価格を意味する。実質利回りとほぼ同義だが、減価償却・金利を含めない点が厳密には異なる。
東京都心オフィスのキャップレートは現在2.5〜3.5%、物流施設は3.5〜4.5%、住宅は3.5〜4.5%が目安。
編集チームの見立て
「表面利回りで判断する」のは、不動産投資で最も多い失敗パターン。最低限、実質利回り と キャッシュオンキャッシュ を計算する習慣をつける必要がある。中長期(5〜10年)の保有を考えるなら、IRR で複数シナリオを比較するのが、判断品質を上げる最大の一歩だ。
「営業マンの想定利回り」と「自分でExcelで計算した実質利回り」が 1.5%以上乖離している 場合は、要注意。何かが計算から抜けている可能性が高い。