投資ガイド
役員報酬の最適額 — 個人税と社会保険のバランス点
法人で稼いだお金を個人に出すとき、報酬額が高すぎ・低すぎでも損する設計。
不動産事業を法人化した時、最大の論点は「役員報酬をいくらに設定するか」。報酬を高くすれば個人の所得税が増え、低くすれば法人税が増える。さらに社会保険料の影響もあるため、両者の均衡点を見極めるのが、税務効率の核心です。本記事では、役員報酬の最適額を試算します。
個人税 vs 法人税の構造
同じ100万円の利益に対する税負担:
個人で受け取る場合
- 所得税(税率帯による): 5〜45%
- 住民税: 10%
- 給与所得控除(月額制): 最大195万円
- 社会保険料(雇用主負担+本人負担): 給与の30%
法人で受け取る場合
- 法人税(中小実効税率): 23〜34%
- 法人住民税均等割: 年7万円固定
- 社会保険なし(役員報酬を出さなければ)
「全額を個人で受け取る」 vs 「全額を法人にプールする」のどちらが優れているか — これが役員報酬最適化の問題。
役員報酬と社会保険料
法人で役員報酬を出すと、健康保険・厚生年金・労災保険の社会保険料が発生します。本人と会社で半額ずつ負担:
- 健康保険(東京・40歳超): 給与の約11.6%
- 厚生年金: 給与の18.3%
- 合計: 給与の30%
- 会社負担分: 15%(法人の経費)
- 本人負担分: 15%(額面給与から差引)
役員報酬600万円なら、社会保険料は会社・本人合計で年180万円。これが税効率を考えるときの大きな変数です。
具体例 — 利益1,500万円の役員報酬最適化
法人の不動産所得が年1,500万円、これをどう分配するか:
パターンA: 役員報酬ゼロ(全額法人留保)
- 法人税: 1,500万 × 23〜34% = 約350万
- 個人所得: ゼロ
- 個人税: ゼロ
- 合計税負担: 350万円
- 法人内剰余: 1,150万円
パターンB: 役員報酬600万円
- 法人売上: 1,500万、報酬600万、社保負担90万 → 法人純利810万
- 法人税: 810万 × 23% = 約190万
- 個人給与: 600万 → 給与所得控除180万 → 課税所得420万
- 所得税+住民税: 約65万
- 本人社保負担: 90万
- 合計税・社保負担: 約435万円
- 個人手取り: 約445万円(本人のみ)
パターンC: 役員報酬900万円
- 法人純利: 1,500万 – 900万 – 社保135万 = 465万
- 法人税: 465万 × 23% = 約107万
- 個人給与900万 → 給与所得控除195万 → 課税所得705万
- 所得税+住民税: 約140万
- 本人社保負担: 135万
- 合計税・社保負担: 約382万円
- 個人手取り: 約625万円
パターンD: 役員報酬1,200万円
- 法人純利: 1,500万 – 1,200万 – 社保180万 = 120万
- 法人税: 120万 × 23% = 約27万
- 個人給与1,200万 → 給与所得控除195万 → 課税所得1,005万
- 所得税+住民税: 約280万
- 本人社保負担: 180万
- 合計税・社保負担: 約487万円
- 個人手取り: 約740万円
パターンBで合計税負担435万、Cで382万、Dで487万。役員報酬900万円あたりが、合計税負担の最小ポイント。さらに低くしたいなら、家族役員にも給与を分散することで全体最適化が進みます。
家族役員への分散
家族(配偶者・成人した子)を役員にして、給与を分散させると更に税負担を圧縮できます:
配偶者役員報酬180万円
- 給与所得控除88万 → 課税所得92万
- 所得税+住民税: 約9万
- 社会保険(短時間労働の場合 加入なし): ほぼゼロ
- 世帯所得分散の効果大
成人した子(無職・学生)役員報酬180万円
- 同様に約9万円の税負担
- 勤労学生控除対象なら更に軽減
家族2人で計360万円の役員報酬を分散することで、世帯としての税負担が更に50〜80万円圧縮できる構造。
役員報酬の決定と変更
役員報酬は、法人の年度開始時に「定期同額給与」として決定する必要があります:
- 会計年度開始から3ヶ月以内に決定
- 決定後は年間同額(変更不可、減額のみ可)
- 減額は会社業績の悪化など正当事由が必要
- 事前確定届出給与でボーナス的支給は届出制
「期中に増減できない」ため、慎重なシミュレーションで年初に決めるのが鉄則。
退職金の活用
役員退職金は、退職所得控除と50%軽減で、極めて税効率が高い受取方法:
- 勤続年数20年: 退職所得控除800万円(40万 × 20年)
- 勤続30年: 1,500万円(40万×20年 + 70万×10年)
- 退職所得 = (退職金 – 控除)× 1/2
- 所得税は分離課税、累進税率の半分相当
例: 勤続20年で退職金2,000万円
- 退職所得 = (2,000 – 800)× 1/2 = 600万
- 所得税+住民税: 約120万円
- 同額の役員報酬で受け取った場合の税: 約500万円
- 差額: 約380万円の節税
長期で法人を運営し、最後に退職金で個人に資産移転するスキームが、不動産事業の出口設計の王道。
専門相談の必須性
役員報酬の最適化は、税理士・社労士との連携が必須。年初の決定で、年間の税負担が大きく変わるため、慎重な判断が必要です。マネカフェ お金の相談のようなFP相談を入り口に、不動産特化の税理士・社労士を紹介してもらう流れが、現実的なアプローチ。
役員報酬の最適額は、法人の利益規模・家族構成・自分の年齢・将来計画で変動する複合的な変数。年に1回は試算を更新し、最適点を維持することが、長期で資産を最大化する設計の核心です。
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