投資ガイド
法人化の損益分岐点 — 課税所得900万円の壁を見極める
個人と法人、どちらで不動産を持つべきか。税率・固定費・出口を含めた立体的な判断軸。
不動産投資が3戸を超え、年間家賃収入が500万円台に達してくると、「個人のままでいいか」「法人化すべきか」という問いに突き当たります。法人化は税率の頭打ち効果や所得分散など多くのメリットがありますが、設立コスト・固定費・出口の難しさという落とし穴も。本記事では、法人化の損益分岐点を3つの軸(税率・コスト・将来構想)から整理します。
個人と法人の税率構造の違い
個人(累進課税)
- 課税所得 〜195万: 所得税5% + 住民税10% = 15%
- 〜330万: 10% + 10% = 20%
- 〜695万: 20% + 10% = 30%
- 〜900万: 23% + 10% = 33%
- 〜1,800万: 33% + 10% = 43%
- 〜4,000万: 40% + 10% = 50%
- 4,000万超: 45% + 10% = 55%
法人(中小企業の実効税率)
- 所得800万円以下の部分: 約23%
- 所得800万円超の部分: 約34%(住民税・事業税込み)
- 欠損金繰越控除10年
個人の課税所得が900万円を超えるあたりから、法人税率の方が低くなる構造です。給与所得とは別に、不動産所得の追加分を法人で受ける方が、世帯全体の手取りが増えやすい。
具体例で見る損益分岐
給与所得1,200万円(課税所得約900万円)、不動産所得 +200万円 という前提で、個人と法人を比較:
個人で受ける場合
- 追加課税所得: 200万
- 適用税率: 33% + 法人税分は無し
- 追加税額: 約66万円
- 不動産所得手取り: 134万円
法人で受ける場合
- 法人税: 200万 × 23% = 46万
- 法人住民税均等割: 7万円
- 追加税額: 約53万円
- 不動産所得手取り(法人内): 147万円
- 個人と法人の差: 13万円(法人有利)
給与所得が1,500万円・1,800万円となるほど、税率差はさらに広がります。給与年収1,800万超(課税所得1,800万超)になると、不動産所得の追加分は税率50%帯になり、法人化の節税効果は年30〜40万円規模になることも。
法人化に伴う固定費
節税効果ばかり見ていると、法人運営のコストを見落としがちです:
初期費用:
- 会社設立費用: 株式会社24万円(電子定款で20万円)、合同会社10万円
- 司法書士費用(任意): 5〜10万円
- 法人銀行口座開設費: 0〜数千円
- 会社印・社印: 1〜2万円
年間固定費:
- 法人住民税均等割: 7万円(赤字でも発生)
- 税理士顧問料: 月3〜5万円(年36〜60万円)、申告のみなら年20〜30万円
- 社会保険料(役員報酬を出す場合): 給与の30%相当を会社負担+個人負担
- その他: 法人決算公告(電子で1万円程度)、登記簿維持費
固定費だけで年30〜80万円。これが税効果と相殺されると、所得規模によっては法人化メリットがほぼゼロに圧縮されます。
役員報酬で所得分散する
法人化の本当の節税効果は、役員報酬を家族に分散できる点にあります。例: 配偶者・成人した子供を役員にして、それぞれ年間120〜200万円の役員報酬を支払う。
- 配偶者役員報酬180万円 → 給与所得控除後の所得95万円 → ほぼ非課税
- 子供役員報酬180万円 → 同様にほぼ非課税
- 世帯所得: 1,500万円(個人) vs 1,140万円(個人) + 180万 + 180万(家族)
同じ世帯に同じだけの収入が入っても、家族で分散することで全体の税率帯を下げられる。これが法人化の本質的な税効率の改善ポイントです。
融資・物件購入のしやすさ
法人新設直後は、融資実績がないため、金融機関側の審査が厳しいのが現実です。多くのケースで代表者個人連帯保証付きの実質個人融資となります。設立後3〜5年で決算書が積み上がってから、ようやく純粋な法人融資が現実的に。
逆に、個人で物件3〜5戸保有してから法人を新設し、所有を順次法人に移管していくスキームの方が、融資調達は安定する。「最初から法人で買う」より「個人実績を法人に移す」方が、金融機関への信頼度の積み上げが速い。
出口戦略との関係
法人で保有した物件の出口は、3パターンあります:
- 法人で売却 → 売却益を法人にプール → 配当か退職金で個人に還元 — 配当は二重課税、退職金は税優遇あり
- 法人ごと売却(M&A) — 法人の株式を譲渡。20%の所得税で済む
- 事業承継 — 子供への株式譲渡 — 相続税対策の側面も
個人で売却すると20%(長期譲渡)で済むのに対し、法人で売却→個人還元には2段階の税が必要。「短期で利益確定したい」スタイルには法人化は向かない、という結論につながります。
判断のチェックリスト
法人化を進めるべきサイン:
- 給与年収1,200万超(課税所得900万超)
- 10年以上保有を想定する物件中心
- 家族に役員報酬を分配する余地がある(配偶者非就労、成人した子供)
- 5年以内にあと2〜3物件買う計画
法人化を慎重に見送るべきサイン:
- 所有物件1〜2戸、買い増し計画なし
- 3〜5年で売却して利益確定したい
- 給与年収800万円以下(節税効果が固定費を下回る)
- 家族に分散する余地がない
「事前相談」が圧倒的に重要
法人化の判断は、税理士・FP・不動産業者など複数の専門家との相談で固めるのが安全。マネカフェ お金の相談のような無料相談を入り口に、税理士紹介を受けて自分の年収・物件構成・将来計画に最適化された判断をする流れが、後悔のない選択につながります。
法人化は税率の頭打ちだけが目的ではなく、不動産事業を10〜20年単位で運営するための「器」。器を持つかどうかは、自分のステージ・家族構成・将来構想を含めた立体的な判断で決めるべきテーマです。
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